5月の大潮は、
小値賀の「磯(いそ)」の解禁日です。
磯とは、サザエや鮑など磯の海産物をとっていい期間のこと。
磯場は、海洋資源を守るため、漁をしていい期間が決められています。
小値賀では、春は5月の初旬から6月にかけての
大潮に合わせ、3度の「磯の解禁日」が設定されます。
2015年の磯は、5月3日〜5日の
まっただ中が「一汐目(ひとしおめ)」
と呼ばれる一度目の磯でした。
磯の日程が回覧板でまわると、
島の磯を愛する人々(ここではイソラーとします)のスイッチオン!
カレンダーに「磯」の日を大きく書き込んで
天気予報をこまめにチェックしてその日を待ちます。
磯には、磯カギ、磯場を歩く靴、
カゴなどアイテムが必要なので
磯に行く家庭には標準装備されていて
磯前にばっちり準備。
そしてこちらは、磯に行ける証しのタオル。
磯に行きたい島民は、小値賀の漁協で
「行使料(こうしりょう)」を支払います。
そして支払い済の証しである
タオルを受け取ります。
行使料を支払わないと、「磯」をする事は出来ません。
「はお〜今年んとはよか色ね〜」
毎年色が変わるタオルの色を、毎年ほめる。
かわいいお母さん達の磯トークを聞いたら
勝負の時のはじまりです。
磯の日には、島中の磯場に
カゴがポツポツと置いてあります。
みんな「しょいてぼ」や「ぞうてぼ」と呼ばれる
島の万能アイテムを近くに置いて、
老若男女が磯にいそしみます。
日々、仕事に畑に精を出す小値賀の島民ですが
磯だけは別です。
「休ませてください。磯のあるけん。」
冠婚葬祭の次に
相手を納得させる事の出来る休日申請です。
磯は、真剣勝負。
ワイワイおしゃべりなどしません。
皆アスリートの顔です。
そして、体中から
海を向き合う喜び
漁の喜びがわきあがっています。
みんな自分のお気に入りの磯場があります。
ここはサザエがよくとれる。とか
ウニに身が入ってる。とか
そういポイントを知っています。
そして、自分の行く磯場については
他人に語りません。
そう。この日だけはみんなライバル。
「磯」は干潮で潮が引く時間に合わせて行うので、時間との勝負。
ひたすらに、箱眼鏡で海の底を見渡して、
獲物をゲットします。
岩の裏に隠れるウニも、
磯カギと呼ばれる棒を岩場の裏で動かして
ウニにあたる感触や音だけで見つけます。
サザエなどは岩と同化していて、
慣れない人が見ても全然そこにいることすらわかりません。
でも、イソラーの目はごまかせません。
ひょいっと保護色のサザエをつかまえます。
泳ぐカニも目にもとまらぬ早業でひと突き。
「はおー、よか味噌汁んでくんな」
磯の途中にカニやタコがとれたらラッキー。
海は島の食の宝箱です。
磯は海との真剣勝負。
そして海の恵みの祭典です。
満ち潮で岩場が隠れ始めるころ、磯を終えます。
潮溜まりで磯をするときには、
海水の中に白いつぶつぶが浮き始めたら
潮が満ちている合図なので
気をつけないといけない。
と、島のお母さんからのアドバイス。
干潮で干上がった磯の塵が、満ちた海水に
洗われているからとのこと。
そして、磯はこれで終わりではありません。
ここからが、大変。
ウニの「しの」が待っています。
「しの」は小値賀弁の「しのべる(片付ける)」から来ているもよう。
ウニを割ってきれいに身を取り出す作業です。
専用の「ウニ割り器」でウニを割ります。
ハサミと逆の要領で握るとパカッと開きます。
ウニにさしてパカッをくりかえします。
ウニの食べられる部分がくずれないように丁寧に取り出します。
そして海水で丁寧に汚れを取り除いていきます。
ウニは、塩水でないと身が溶けてしまうので
必ず海水で洗います。
このお宅では
左の容器から洗い始めて順にきれいに。
浮いているウニの入ったザルには小さな穴が空います。
食べられない部分を丁寧に割り箸でとっていきます。
すると、なんということでしょう。
ピカー!!!!
この作業の手間を知ると、ウニが高価なのも納得します。
安く感じるくらいです。
世に出ているウニも、こうやって大切に「しの」されてると思うと
全国のイソラーの皆さんに感謝せずにはいられません。
磯の収穫物は漁協や島の海産物屋に卸されます。
そして島外に住む家族や親戚にも送ります。
ピカー!!
磯で1日頑張ったご褒美は、もちろん海の幸。
頑張った分さらに美味しい!
《天国その1》
《天国その2》
日常が最高に贅沢な小値賀島の暮らしですが
磯の時期はスペシャル。
海とともに生きて、
海から恵みをいただく喜びを全身で感じる「磯」は
島で暮らしているからこそ味わえる
ワクワクと喜びと美味しいがいっぱいの一大イベントです。